【本のなかみ】ポエ漫の旗手『青の時代/安西水丸』をレポート【絶対良書】

本のなかみ 0003  アイキャッチ なんか面白い

このブログへのアクセスありがとうございます。

この記事はグラフィックデザイナー兼イラストレーターのネコヒートが書いています。

今回の記事は「ネコレポ」で「漫画」のご紹介。

取りあげたのは、『青の時代 / 安西水丸』です。
青の時代 表紙
もともとガロ系の漫画は大好きだったんです。
とくに好きな漫画家は、つげ義春、林静一、蛭子能収、滝田ゆうですね。
商業誌では見ないような独特の個性があって、なーんか良いんですよね、ガロ系漫画って。
しかし、じつは今回ご紹介する安西水丸先生に関しては、「ゆるい線のヘタウマ系イラストレーターくらいの認識」しかありませんでした。
はじめて本書を意識したときも、「ふ〜ん、イラストレーターの描いた漫画か〜」なんて、思っていましたが、読後は印象がガラリ、
  「ここに天才がおったー!」と叫んでしまいたいくらいの出来栄えにビックリしてしまいました。
今回はそんなイラストレーターと漫画家の両方で活躍された安西水丸『青の時代』をレポートいたします。

それでは、さっそく行ってみましょう、

ドーゾッ! 

レポート

レポート項目は2つです。

  1. 基本情報
  2. 内容

1. 基本情報

作者は、安西水丸(あんざいみずまる・2014年71歳没)。
一見誰にでも描けそうなたよりない描線を武器に活躍したヘタウマ系イラストレーターです。
でも、じつはヘタじゃないんですよ。
この『青の時代』は、購入する前に内容が知りたくていろいろ情報を探しましたが、すっきりと内容が確認できるものがありませんでした。
「短編漫画のみ」なのか、「短編にエッセイが混じったもの」なのか、はっきりした情報が欲しくてあちこち見て回りましたがさっぱりわからない。
ここではっきりさせておきましょうね。
ひと言でいえば「自伝的短編漫画集」です。
しかも、あの伝説の漫画雑誌『ガロ』で発表された作品を集めた短編集とのこと。
全編短編漫画のみの収録です。
漫画としての話数はぜんぶで、13 編。

タイトル

  1. 青の時代
  2. 少女ロマンス
  3. 冬まつり
  4. 荒れた海辺
  5. 裏庭
  6. 汽車
  7. 草競馬(千倉町美学・改題)
  8. 冬レンズ
  9. よいどれ雲
  10. 魚の家
  11. 自転車屋
  12. 怪人二十面相の墓 前編
  13. 怪人二十面相の墓 後編
  14. 解説(嵐山光三郎)
  15. インタビュー(安西水丸)

ストーリー

ごく大ざっぱに言いますと、作者が子供のころを過ごした千葉の漁村を舞台にくりひろげられる、主人公の男の子「のぼる」(おそらく水丸先生)の主観と妄想入り交じる日常たんとなっております。

2. 内容

冒頭でも書きました通り、読後は「こんな作品があったとは…安西先生、天才じゃん」とい感じ。
あまり、期待していなかったせいもあり、 想像の上をいく完成度とキレ味を感じてしまいました。
コマとコマの余白を読ませるところなんかは、まさに「詩」。
「ポエ漫」と呼ぶにふさわしい出来ばえ。
そして、こういう作品は、現代の漫画家には描けないだろうな、とも思ったのでした。
それは、漫画なんだけど漫画じゃない要素で作られている漫画に見えたからです。
それが「ポエ漫」を作っている「もと」だと直感しました。
なにがすごいと言えば、
  1. 言葉選びのセンス
  2. デペイズマンを使用した画面デザイン 
  3. ヘタウマ系なのにすぐれたバランス感覚
① 言葉選びのセンス
かんたんな言葉を使いっています。ひらがなも多い印象。絵のチカラとあわせて画面構成している。言葉は道具、武器なんだとあらためてわかりました。
無表情な丸顔の男の子が主人公です。
いい味出してますねぇ。
青の時代 なかみ 03
② デペイズマンを使用した画面デザイン
デペイズマンはもともとは美術用語です。
「本来そこにない(矛盾する)ものを登場させることで、あえて違和感を感じる画面づくり」をし、鑑賞者に不安感やワクワク感を感じさせるテクニックのこと。
これは、蛭子能収や林静一とか、ガロ系の作家がけっこう多用するテクニックですね。
例えば、かつてニュースにもなったことがある「海中のなかの郵便ポスト」みたいなことです。
ちなみに、デペイズマンで有名なアーチストは、
  • ルネ・マグリット
  • サルバドール・ダリ
  • マックス・エルンスト
  • ジョルジョ・デ・キリコ
と、このあたりでしょう。興味のある人は調べてみてくださいね。
この『青の時代』でも、デペイズマンが効果的に使われています。
(思春期の)男の子の主観で描かれているせいか、へんな場所に裸の女性がちょいちょい登場しますが、それが奇妙なテイストの画面になっているんですよね。
青の時代  なかみ 04
もともと田舎の漁村の話のはずなのに、一部デペイズマンを用いた画面を作成することで、不思議とどこかの遠い異国のような(なんとなく)格調たかい雰囲気になっているように感じられました。
青の時代 なかみ 02
③ ヘタウマ系なのにすぐれたバランス感覚
これは、安西先生がグラフィックデザイナーだったことが由来しているのではないでしょうか。
一番はじめがグラフィックデザイナー、次がイラストレーター、そして漫画家。
ハイブリットな人物だったことが、この独特のバランス感覚を持った漫画を生みだすチカラになったと見て間違いありません。
さて、これら複数のテクニックをたったひとりで使いこなし漫画に料理するのですだから、スゴイのひと言!
静かなんだけどわくわくする、
いつまでも、何回も味わいたい、独特の読み味。
これは総じて面白い漫画、というよりは、スゴイ漫画です。
いろいろな人に味わってほしいなぁ。
とくに、漫画、アニメ、映画、イラストなどの「表現の世界を目指しているすべての人」に一度は目を通していただきたい。ものです。
ヘタっぴに見えるのに、妙にバランスがいい感じ…。(本当はヘタではないんですが)
こんなヘンテコな感じなのに漫画になっている不思議…。
うまい絵では決してないのに感じる、漫画としてのすごみ…。
もし、長い間、表現の世界に関わる予定がおありならば、創造の引き出しに入れておいて間違いない作品だと断言できます。
とくに本離れがさけばれている今、絶版スピードが早いご時世です。
そんなときだからこそ、「ポエ漫」の名手が描いた『青の時代』、1冊いかがでしょうか?
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